高次脳機能障害の後遺障害の等級(労災保険の基準)
1 自賠責保険と労災保険の基準の関係
自賠責保険における後遺障害の等級の認定は、原則として、労災保険における認定基準に準じて行われています。
ただ、高次脳機能障害に関しては、自賠責保険が、労災保険に先行して、補足的な考え方を発表しました。
詳しくは、「高次脳機能障害の後遺障害の等級(自賠責保険の基準)」をご覧ください。
その後、労災保険が、以下の基準を発表したため、基準が分かれています。
この点、自賠責保険(損害保険料率算出機構)は、自賠責保険の基準で後遺障害の等級を認定した後、労災保険の基準でも検証し、最終結論を出す方針としています。
2 4能力
そして、(脳外傷による)高次脳機能障害の等級の認定については、労災保険は、まず、以下の4能力に着目しています。
(1)意思疎通能力(記銘・記憶力、認知力、言語力等)
職場において、他人とのコミュニケーションを適切に行えるかどうか等について判定されます。主に、記銘・記憶力、認知力又は言語力の側面から判断されます。
(2)問題解決能力(理解力、判断力等)
作業課題に対する指示や要求水準を、正確に理解し適切な判断を行い、円滑に業務が遂行できるかどうかについて判定されます。主に、理解力、判断力、又は集中力(注意の選択等)について判断されます。
(3)作業負荷に対する持続力、持久力
一般的な就労時間に対処できるだけの能力が備わっているかどうかについて判定されます。精神面における意欲、気分又は注意の集中の持続力・持久力について判断されます。その際、意欲又は気分の低下等による疲労感や倦怠感も含めて判断されます。
(4)社会行動能力(協調性等)
職場において、他人と円滑な共同作業、社会的行動ができるかどうか等について判定されます。主に、協調性の有無や不適切な行動(突然大した理由もないのに怒る等の感情や欲求のコントロールの低下による場違いな行動等)の頻度について判断されます。
3 「高次脳機能障害整理表」
そして、労災保険は、上記の4能力の喪失の程度について、「高次脳機能障害整理表(労災保険の基準)」のように、整理しています。
「高次脳機能障害整理表(労災保険の基準)」をご覧ください。
4 (脳外傷による)高次脳機能障害の後遺障害の等級(労災保険の基準)
そして、(脳外傷による)高次脳機能障害について、労災保険は、以下のように、後遺障害の等級を認定しています。
(1)後遺障害等級1級
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」
ア | 「重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの」 |
イ | 「高次脳機能障害による高度の痴呆症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの」 |
(2)後遺障害等級2級
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」
ア | 「重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの」 |
イ | 「高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの」 |
ウ | 「重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの」 |
(3)後遺障害等級3級
「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」
ア | 「4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの」(「高次脳機能障害整理表」のF欄) |
イ | 「4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの」(「高次脳機能障害整理表」のE欄) |
(4)後遺障害等級5級
「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」
ア | 「4能力のいずれか1つ以上の能力の大部分が失われているもの」(「高次脳機能障害整理表」のE欄) |
イ | 「4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの」(「高次脳機能障害整理表」のD欄) |
(5)後遺障害等級7級
「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」
ア | 「4能力のいずれか1つ以上の能力の半分程度が失われているもの」(「高次脳機能障害整理表」のD欄) |
イ | 「4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの」(「高次脳機能障害整理表」のC欄) |
(6)後遺障害等級9級
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」
「高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つ以上の能力の相当程度が失われているもの」(「高次脳機能障害整理表」のC欄)
(7)後遺障害等級12級
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの」
「4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの」(「高次脳機能障害整理表」のB欄)
(8)後遺障害等級14級
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの」
「MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの」(「高次脳機能障害整理表」のA欄)