高次脳機能障害の認定
1 (脳外傷による)高次脳機能障害の自賠責保険(損害保険料率算出機構)の認定の体制
(1)(脳外傷による)高次脳機能障害の特徴~「見過ごされやすい後遺障害」
(脳外傷による)高次脳機能障害とは、脳外傷を受けて、認知障害や人格変化が生じる障害のことをいいます。
この点、例えば、認知障害は、脳外傷とは無関係の痴呆症により発生する場合もあり、医師も、必ずしも、高次脳機能障害に十分な理解があるわけではありませんので、交通事故被害者の認知障害や人格変化の原因が、(脳外傷による)高次脳機能障害が原因であると気付かれないことも多い状況です。
よって、(脳外傷による)高次脳機能障害は、「見過ごされやすい後遺障害」であるということができます。
(2)「高次脳機能障害が問題となる事案」
そこで、後遺障害の等級を認定する、損害保険料率算出機構は、以下の5条件を設定し、いずれか1つの条件でも該当する事案については、これを、「高次脳機能障害が問題となる事案」(特定事案)と位置づけています。
そして、医師と被害者の家族に照会することにしています。
- 初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘症あるいは軽度意識障害(JCSが2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例
- 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
- 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症例(注)、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例
(注)具体的症状として、以下のものが挙げられる。
記憶・記銘力障害、失見当識、知能低下、判断力低下、注意力低下、性格変化、易怒性、感情易変、多弁、攻撃性、暴言・暴力、幼稚性、病的嫉妬、被害妄想、意欲低下 - 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3か月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例
- その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例
(3) 高次脳機能障害審査会
そして、「高次脳機能障害が問題となる事案」(特定事案)については、専門医を審査会委員とする高次脳機能障害審査会で、審査、認定が行われます。
2 (脳外傷による)高次脳機能障害の自賠責保険(損害保険料率算出機構)の認定の基準
上記のように、例えば、認知障害は、脳外傷とは無関係の痴呆症により発生する場合もあります。
また、(脳外傷による)高次脳機能障害は、画像所見では、脳の異常が確認できにくいという問題点があります(「目に見えにくい後遺障害」)。
そこで、(脳外傷による)高次脳機能障害の認定の基準が問題となります。
この点、損害保険料率算出機構は、(脳外傷による)高次脳機能障害を認定する重要ポイントとして、以下の4点を指摘しています。
- 頭部外傷急性期における、意識障害の程度と期間
半昏睡以上の意識障害(JCSが3桁か、またはGCSで8点以下)が6時間以上続くか、または、軽症意識障害(JCSが2から1桁、GCSで13から14点)が1週間持続、ただし、高齢者はこれより短くてもよい。
- 家族や実際の介護者や周辺の人が気づく日常生活の問題。
- 画像所見として、急性期における何らかの異常所見、または、慢性期にかけての局所的な脳萎縮とくに脳室拡大の進行。
急性期は、脳内の点状出血、脳室内出血、くも膜下出血であり、慢性期は、事故後の画像と比較して限局性またはびまん性の脳萎縮または脳室拡大。
- 頭部外傷がなく、あるいは頭部外傷があっても、ふだんの日常生活に戻り、その後数ヶ月以上を経て、次第に高次脳機能障害が発現したようなケースにおいて、外傷による慢性硬膜下血腫も認められず、脳室拡大の進展も認められなかった場合には、外傷とは無関係に内因性の痴呆症が発症した可能性が高いものといえる。
なお、急性期とは、受傷日から約3か月、慢性期とは、約3か月以降です。