交通事故の場合の健康保険の利用
1 交通事故の場合の健康保険の利用の可否
被害者が、交通事故に遭って負傷し、医療機関で治療する場合、9割近くが、健康保険による診療ではなく、自由診療で行われている状況のようです。
このような状況から、被害者の中には、交通事故の場合、健康保険を利用できないと思われている方も多くいると思います。
なお、自由診療の場合、診療単価が、健康保険の約2倍と高額になります。
しかし、厚生労働省は、繰り返し、交通事故の場合でも、健康保険を利用できると発表していますので、健康保険を利用できることは間違いありません。
2 被害者にとっては、健康保険の利用が有利
そして、交通事故被害者にとっては、健康保険を利用する方が有利であるのが一般です。
以下、説明いたします。
(1)被害者にも過失がある場合
まず、例えば、交通事故被害者と加害者の過失割合が、3:7で、被害者が、自由診療で、治療費が100万円かかかった場合を考えます。
この場合、交通事故被害者は、加害者側の任意保険会社から、70万円(100万円×0.7)の補償を受けることができますが、自らの過失部分である30万円は、自分で負担する必要があります。
他方、自由診療で、治療費が100万円かかるところ、健康保険を利用したことにより、50万円ですみ、さらに、患者の自己負担は2割の10万円である場合を考えます。
この場合、交通事故被害者は、加害者側の任意保険会社から、7万円(10万円×0.7)の補償を受けることができますが、自らの過失部分である3万円は、自分で負担する必要があります。
しかし、被害者にとっては、自由診療より、健康保険を利用した場合の方が、負担する金額が少なくなりますので、有利になります。
(2)被害者に全く過失がない場合
次に、交通事故被害者に全く過失(落ち度)がない場合を考えます。
この場合、交通事故被害者にとっては、例えば、自由診療の場合、治療費が100万円かかり、他方、健康保険を利用した場合、50万円ですみ、患者の自己負担が2割の10万円であったとしても、どちらでも、加害者側に全額請求できるので、変わらないとも思えます。
しかし、加害者側の支払能力に問題がある場合、例えば、加害者側が任意保険に未加入の場合、自賠責保険からの補償を期待することになりますが、自賠責保険の支払基準には上限があり、自由診療の場合、その上限枠を早めに使い切ってしまうことになるため、交通事故被害者に不利になります。
また、自由診療により治療費が高額になると、治療費の相当額をめぐる交通事故紛争が生じやすくなるという問題が生じます。
3 医療機関との関係
(1)医療機関にとっては、自由診療が有利
しかし、このように、交通事故被害者にとっては、健康保険を利用する方が有利であるのが一般にもかかわらず、なぜ、実際、9割近くが、自由診療で行われている状況であるかというと、自由診療により治療費が高額になると、医療機関に有利であり、医療機関は自由診療を希望するからです。
そして、交通事故被害者も、医療機関に治してもらう立場のため、医療機関の受けが悪くならないようにと考えることが多いからであるといえます。
(2)被害者の医療機関に対する対応の仕方
確かに、交通事故被害者は、医師と良好な関係を築いておいた方がよいのは、間違いありません。
また、交通事故被害者が健康保険を利用する場合、医療機関が、自賠責保険の所定の用紙による診断書、後遺障害診断書、診療報酬明細書を書いてくれないこともあるようです。
よって、医療機関に対する対応の仕方は、難しい問題ですが、被害者にも過失(落ち度)がある場合や、加害者側が任意保険に未加入の場合、被害者は、医療機関に対して、自由診療だと、自らに不利になることをきちんと伝えて、理解を求め、よく相談するのがよいと思います。
医療機関が、自由診療でも健康保険でも、交通事故被害者にとっては変わらないと誤解していることもあるからです。
そして、それによって、医師との関係が悪化してしまった場合は、交通事故被害者は、思い切って医療機関を変えてしまうのも、一つの方法であると思います。