逸失利益が問題となる後遺障害(外貌醜状等)

1 逸失利益が問題となる後遺障害

(1)問題点

逸失利益とは、被害者が、仮に、交通事故による後遺障害がなければ、得られたであろう利益のことをいいます。この場合の利益は、通常、所得収入になります。

そして、後遺障害による逸失利益は、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、労働能力喪失率をもとに、計算されており、労働能力喪失率は、裁判実務では、原則として、労働能力喪失率表をもとに、後遺障害の等級の程度に応じて、決められています。

例えば、後遺障害等級12級の場合、労働能力喪失率は14%とされており、交通事故被害者は、労働能力が14%低下したため、今後得られる所得収入も、後遺障害がない場合と比較して、14%低下したと考えられています。

詳しくは、「後遺障害による逸失利益」をご覧ください。

しかし、例えば、後遺障害が外貌醜状や歯牙障害の場合、労働能力が喪失しておらず、後遺障害による逸失利益が認められないのではないか、又は、労働能力喪失率を原則より低く評価すべきではないかが問題となります。

(2)労働能力喪失率が問題となる後遺障害

交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、労働能力喪失率が問題となる後遺障害として、以下のような後遺障害が挙げられています。

  • 外貌醜状
  • 歯牙障害
  • 嗅覚障害
  • 味覚障害
  • 腸骨採取による骨盤骨変形
  • 脊柱変形
  • 脾臓喪失
  • 鎖骨変形
  • 下肢短縮
  • 腓骨の偽関節

(3)交通事故の後遺障害事案における裁判実務の運用

交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、上記のような後遺障害の場合、職業、年齢、性別等を個別具体的に検討されます。

そして、労働能力喪失率が、原則通り認められる場合もあれば、原則より低く認められる場合もあれば、逸失利益が認められない場合もある状況です。

また、逸失利益が低く算定された場合、後遺障害慰謝料で評価する場合も多い状況です。

2 逸失利益が問題となる後遺障害に関する判例

逸失利益が問題となる後遺障害に関する判例を紹介いたします。

裁判・弁護士基準を規定している、通称「赤い本」(「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故相談センター東京支部))に掲載されている判例の一部を紹介いたします。

(1) 後遺障害による逸失利益

ア 外貌醜状

後遺障害等級7級の事案

主婦(女・固定時26歳)のオトガイ部瘢痕(7級、頭部後屈時のひきつれによる下顎部の違和感を含む)、歯牙損傷(14級、併合7級)の後遺障害による逸失利益につき、外貌醜状については主婦であるから大きく労働能力に影響するとは考えられないが、影響が全くないとは言えず、ひきつれによる違和感が認められること、歯牙欠損による補綴は家事労働その他に一定の程度影響を与えると認められること等から、41年間16%の労働能力喪失を認めた(東京地判平22.8.31)

会社員(女・固定時58歳)の8年にわたり8回の顔面修正術等の手術を受け、右下眼瞼、鼻孔下部及び鼻背を中心とする線状痕、鼻背を中心とする長さ5cm以上の線状痕(7級12号)、嗅覚障害等(併合6級)の後遺障害による逸失利益につき、転職を余儀なくされており、外貌醜状が労働能力に影響を与える程度は相当深刻であるとし、9年間30%の労働能力喪失を認めた(東京地判平23.3.29)

大学生(女・固定時24歳)の頭部外傷に伴う精神神経障害等(7級4号)、右同名半盲(9級3号)、醜状障害(7級12号、併合5級)の後遺障害による逸失利益につき、左前額部の10円硬貨大以上の組織陥没は人目につき、年齢等からすれば稼働に対する一層の制約が生じ、収入が減少することは十分考えられることから、43年間79%の労働能力喪失を認めた(東京高判平23.10.26)

後遺障害等級12級の事案

会社員(女・固定時29歳)の顔面醜状(12級14号)、下顎骨折に伴う左顎痛(12級12号)、7歯欠損(12級3号、併合11級)の後遺障害による逸失利益につき、外貌醜状により接客や対人間関係の障害による就労への悪影響があるとして、21年間20%の労働能力喪失を認めた(東京地判平13.8.7)

専門学校を卒業して各種資格を有し、ダイビングインストラクターを目指すアルバイト(女・固定時21歳)の右下肢醜状(12級)、左下肢醜状(14級5号、併合12級)、軽度右下肢機能障害(5度制限が足りず自賠責非該当)の後遺障害による逸失利益につき、機能障害により労働能力が相当程度喪失したこと、両下肢の醜状がその職業選択を狭め、少なくともダイビングインストラクターとなる可能性は閉ざしたことから、10年間15%、次の10年間10%、その後10年間5%の労働能力喪失を認めた(東京地判平14.9.25)

被害者が男性の事案

予備校生(男・事故時19歳、固定時29歳)の頸部、腰部の神経症状(各14級10号)、顔面醜状(12級13号、併合12級)の後遺障害による逸失利益につき、男性といえども醜状痕によって希望する仕事への就職が制限されたり、就職しても営業成績があがらなかったり、仕事の能率や意欲を低下させて所得に影響を与えることは十分考えられるとして、症状固定から10年間10%、その後10年間5%の労働能力喪失を認めた(東京地判平13.8.22)

被害者(男・固定時23歳・職業不明)の頭部の3か所の線状瘢痕(12級13号)、歯牙障害(13歯に補てつ12級3号、併合11級)の後遺障害による逸失利益につき、対人面接が重要な職種によっては就労の機会を制限され、労働の意欲を低下させるとして、44年間5%の労働能力喪失を認めた(東京高判平14.6.18)

イ 嗅覚障害

花屋経営(女・固定時30歳)の嗅覚脱失、脳挫傷後の精神・神経障害等(併合11級)の後遺障害による逸失利益につき、交通事故後に花屋を閉店し花関係のアルバイトをしているが錯覚臭が続くと体調が悪くなり、嗅覚がなく仕事上支障があること、料理、掃除等家事労働にも影響を受けているとし、他方で頭部の疼痛は慣れ等により労働に対する影響が逓減するとして、10年間20%、その後27年間14%の労働能力喪失を認めた(東京地判平18.3.14)

(2)後遺障害慰謝料

ア 外貌醜状

後遺障害等級7級の事案

顔面醜状(7級12号)、左膝関節機能障害(8級7号)、左大腿部醜状(14級5号)、採骨による骨盤変形(12級5号、併合5級)の主婦(事故時44歳)の慰謝料につき、治療期間約3年の傷害分600万円、顔面醜状は考慮しないで労働能力喪失率を60%としたことから、後遺障害分1700万円を認めた(東京地判平14.4.16)

後遺障害等級12級の事案

主婦(固定時70歳)の顔面醜状(12級14号)の慰謝料につき、逸失利益を否定したが、日常生活への影響、後遺障害等級に該当しない右肘頭骨折後の手術痕等が残存していることなどから、後遺障害分350万円を認めた(東京地判平24.4.25)

後遺障害等級14級の事案

長管骨の変形(12級8号)、右下肢醜状(14級5号、併合12級)の小学生(女・6歳)の慰謝料につき、傷害分220万円のほか、右下腿の変形及び内側骨棘は担当医師から将来手術の可能性を指摘されていること、右下腿には長さ14cmの瘢痕をはじめとして5か所の瘢痕が残っており、直ちに労働能力に影響するものではないが今後の精神的苦痛を軽視することはできないとして、後遺障害分350万円を認めた(東京地判平23.6.29)

イ 歯牙障害

7歯の歯科補綴(12級)、顔面醜状(12級、併合11級)の会社員(オペレーター)(男・固定時24歳)の後遺障害慰謝料につき、労働能力に直接的な影響を与えているとまではいえないが、対人関係に消極的となっており、労働意欲その他労働能力に間接的な影響を及ぼしていることから630万円を認めた(東京地判平17.12.21)

ウ 嗅覚障害

嗅覚障害(12級相当)、顔面醜状(14級11号、併合12級)の大学生(男・事故時31歳)の後遺障害慰謝料につき、逸失利益が認められないことを考慮し、600万円を認めた(東京地判平11.5.25)

エ その他の後遺障害

左精巣摘出(13級7号)の大学生(男・事故時20歳)の後遺障害慰謝料につき、逸失利益は否定したものの、270万円を認めた(東京高判平20.9.4)

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