後遺障害を負った被害者に減収がない場合(後遺障害による逸失利益)

1 後遺障害を負った被害者に減収がない場合の、後遺障害による逸失利益

(1)問題点

逸失利益とは、被害者が、仮に、交通事故による後遺障害がなければ、得られたであろう利益のことをいいます。この場合の利益は、通常、所得収入になります。

そして、後遺障害による逸失利益は、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、労働能力喪失率をもとに、計算されており、労働能力喪失率は、裁判実務では、原則として、後遺障害の等級の程度に応じて、決められています。

例えば、後遺障害等級12級の場合、労働能力喪失率は14%とされており、交通事故被害者は、労働能力が14%低下したため、今後得られる所得収入も、後遺障害がない場合と比較して、14%低下したと考えられています。

詳しくは、「後遺障害による逸失利益」をご覧ください。

しかし、例えば、後遺障害等級12級の交通事故被害者の場合、計算上は、上記のようになるとしても、実際には、被害者に減収がない場合、損害が発生していない以上、そもそも、後遺障害による逸失利益は認められないのではないかが問題となります。

(2)最高裁判例

この点、最高裁昭和56年12月22日判決は、逸失利益は、原則として、認められないと判断しています。

但し、最高裁判決は、「たとえば、(1)事故の前後を通じて収入の変更がないことが本人において労働能力低下による収入の減少を回復すべく特別の努力をしているなど事故以外の要因に基づくものであって、かかる要因がなければ収入の減少を来たしているものと認められる場合とか、(2)労働能力喪失の程度が軽微であっても、本人が現に従事し又は将来従事すべき職業の性質に照らし、特に昇給、昇任、転職等に際して不利益な取扱を受けるおそれがあるものと認められる場合など、後遺症が被害者にもたらす経済的不利益を肯認するに足りる特段の事情」が認められれば、逸失利益は、認められると判断しています。

そして、交通事故の後遺障害事案における裁判実務では、この最高裁判例が挙げた「特段の事情」を認定して、逸失利益を認めることが多い状況です。

2 後遺障害を負った被害者に減収がなくても逸失利益を認めた判例

後遺障害を負った被害者に減収がなくても逸失利益を認めた判例を紹介いたします。

裁判・弁護士基準を規定している、通称「赤い本」(「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故相談センター東京支部))に掲載されている判例の一部を紹介いたします。

(1)公務員

国家公務員(男・固定時48歳)の左膝疼痛及び運動時痛等(12級13号)の後遺障害による逸失利益につき、交通事故後復職し減収はないが、工事監督のための外回りの業務や立ち仕事等に少なからず支障が生じていることから、10%の労働能力喪失を認め、また、将来民間企業に就職することが予想されることから、定年である60歳ではなく67歳までの19年間を認めた(東京地判平23.9.20)

事故後民営化された公団職員(男・固定時43歳)の左眼失明・右眼視力低下(7級1号)・左眼瞼障害(11級3号)等(併合6級)の後遺障害による逸失利益につき、減収がなく処遇や昇給も特に不利益を受けていないが、多大な肉体的・精神的負荷を被りながら管理職としての職務を遂行していること、60歳定年後の再就職の機会や収入に少なからず影響を与える可能性があることから、60歳までは固定時収入(1033万円余)を基礎とし右眼視力低下は心因性によることも考慮して25%、60歳から67歳までは賃セ男性学歴計全年齢平均547万8100円を基礎に60%の労働能力喪失を認めた(東京地判平21.12.10)

(2)公務員以外の給与所得者

会社員(男・固定時29歳)の第4胸髄以下完全麻痺、知覚喪失、高次脳機能障害(別表第1の1級1号)の後遺障害による逸失利益につき、交通事故前と遜色のない給与所得を得られているのは、被害者の多大な努力や稼働先の理解・配慮を得られていることによるとして、交通事故当時同世代の大卒男子の平均年収に劣らない収入を得ていたことから賃セ男性大卒全年齢平均を基礎に、38年間85%の労働能力喪失を認めた(東京地判平21.10.2)

バイク便勤務(男・35歳)の左肘関節障害(12級6号)、神経障害(12級12号、併合11級)の後遺障害による逸失利益につき、肉体労働は困難となり、出版社に正社員として就職し交通事故前より増収する見込みではあるが、これは幸運にも就職先が見つかったことや本人の努力の結果であるとして、67歳まで14%の労働能力喪失を認めた(東京地判平14.8.28)

信用金庫営業係長(男・固定時40歳)の右下腿部疼痛等(12級12号)、右足関節可動域制限(10級11号、併合9級)の後遺障害による逸失利益につき、所得が減少していないのは特別の努力によるもので、役職である係長から内勤の主事に異動することになって将来の昇給・昇進等不利益を受けるおそれがあるとして、定年60歳までは交通事故前年の給与収入(549万円余)、60歳から65歳までは賃セ男性学歴計60歳から64歳平均(451万2400円)、65歳から67歳は同65歳以上平均(404万9700円)を基礎に、40歳から50歳までの10年間は35%、50歳から67歳までの17年間は27%の労働能力喪失を認めた(東京地判平20.3.11)

(3)その他

大学生(男・固定時22歳)の左股関節機能障害(12級7号)、左膝関節機能障害(12級7号)、両下肢大腿部醜状障害(12級、併合10級)の後遺障害による逸失利益につき、大学卒業後栄養士として病院に勤務し、給与等が普通にベースアップしているが、これは本人の相当な努力及び職場の理解によるものであり、階段の上り下りや調理に支障が生じていることから、賃セ大卒全年齢平均654万4800円を基礎に、45年間27%の労働能力喪失を認めた(大阪地判平23.4.13)

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